
市場へ出荷するだけでは、魚の値段は相場に左右され、手間をかけて締めた魚も他と同じ値で扱われることがあります。そこで飲食店と直接取引を始める漁師もいますが、実際に始めると、送料をどう乗せるか、時化で出荷できない日をどう伝えるか、代金をいつ受け取るかなど、市場出荷では考えなくてよかった部分の取り決めが必要になります。
直接取引が続くかどうかは、魚の質だけでなく、飲食店が不安に思う点を取引条件で先に解消できているかで大きく変わります。また、漁の合間に営業できる時間は限られるため、取引先の見つけ方も最初に決めておくことが大切です。
本記事では、飲食店が漁師との直接取引に期待すること・不安に思うことを整理し、送料込み価格や鮮魚ボックスなどの取引条件の決め方、2回目以降の注文につながる品質と対応、取引先となる飲食店の見つけ方について解説します。
飲食店が漁師との直接取引に
期待すること・不安に思うこと

飲食店が直接取引に期待すること
水産物の流通は、卸売市場を経由しない取引が増えています。水産庁の水産白書(令和元年度)によると、消費地の卸売市場を経由する水産物の割合は1989年の75%から2016年には52%まで下がりました。同白書は、漁業者による直販や、漁業者と小売店・外食チェーン等との直接取引が増えていることを挙げ、そのメリットとして流通コストの縮減、流通時間の短縮、これまで流通に乗らなかった未利用魚の販売を示しています。
参考:水産庁「令和元年度 水産白書(6)流通加工構造の変化」
飲食店の立場から見ると、直接取引に期待することは主に次の3つです。
- 鮮度:水揚げから厨房に届くまでの時間が短く、刺身など生で出す料理で違いが出やすい
- 市場に出回りにくい魚:まとまった量が獲れない地魚や小型の魚を仕入れ、他店にないメニューに使える
- 産地の情報:どこで獲れ、どう締めたかを、お客様への説明やメニュー表記に使える
一方、「仲介を通さないから安い」という期待には注意が必要です。送料や箱代を含めると、市場経由より総額が安くなるとは限りません。価格の安さだけで選ばれる取引は、送料が上がった時点で続かなくなるため、上の3つを提供できるかどうかを先に考えることが大切です。
飲食店が直接取引で不安に思うこと
飲食店が漁師との直接取引をためらう理由は、次の5つです。
- 総額が分かりにくい:魚の単価が安くても、クール便の運賃や箱代が加わると仕入れ値が読めない
- 量が合わない:1回の発送量が多く、個人経営の店では使い切れない
- 欠品:天候不良で入荷されず、メニューに穴が空く
- 連絡がつかない:漁の最中は電話がつながらず、発送状況が分からない
- 支払い方法:請求のタイミングや方法が、今の仕入れ先と異なる
これらは魚の質だけでは解消できない不安要素です。次の章では、それぞれの不安を取引条件としてどう決めるべきかについて説明致します。
直接取引を獲得するための「取引条件の決め方」
送料・箱代を含めた価格の示し方とロットの決め方
魚の単価と送料を別々に示すと、飲食店は届くまで総額が分からず、原価計算がしにくくなります。「〇kg前後・送料箱代込みで〇円」「発送地域ごとの送料込み価格表」のように、店に届くまでの総額で示しましょう。
クール便の運賃は箱のサイズと届け先の地域で変わるため、1箱に入れる量の上限と発送する地域を先に決めておく事で、価格表を作りやすくなります。氷の当て方や、パーチ(鮮魚を包む吸水性のある紙)で包むといった鮮度を保つ工夫もあわせて記載すると、送料込みの価格に納得してもらいやすくなります。
最小ロットを決める際は、自分の漁獲量と取引先の規模の両方から決めます。ロットを小さくしすぎると1箱あたりの送料の割合が上がるため、「注文できる最小量」と「送料込み価格が適用される量」を分けて設定する方法も。また、直接取引となると仲介手数料(中間マージン)がかからない分、単価を上げやすくなりますが、梱包資材、送料、箱詰めの手間は自分で負担することになるため、それらを差し引いた手取りで、市場出荷と比べて判断してください。
欠品リスクを吸収する「お任せ鮮魚ボックス」
魚種を指定した注文は、時化や不漁の日は受けることができません。そんなリスクを防ぐために、魚種は漁師に任せて、予算・量・用途だけを決めて定期的に送る「お任せ鮮魚ボックス」という形があります。漁師はその日に獲れた魚で中身を組めるため、特定の魚種が獲れない日でも出荷することができます。飲食店にとっては、日替わりのおすすめメニューに使いやすい仕入れにもなります。
お任せボックスを設定する場合は、次の項目を飲食店と事前に決めましょう。
- 1箱の予算帯と量の目安
- 用途(刺身向け、焼き物・煮付け向けなど)
- 店で扱わない魚種
- 発送する曜日
- 時化などで出荷できない日の扱い(休みにするか、次の便に振り替えるか)
代金回収の方法を取引前に決める
水産庁の水産白書(令和5年度)では、卸売市場が担う役割として、集荷・分荷、価格の形成、代金の迅速で確実な決済などを挙げています。市場に出荷していれば代金は市場を通じて受け取れますが、直接取引では価格を決めることと代金を回収することを漁師自身が担うことになります。
参考:水産庁「令和5年度 水産白書(8)水産物の流通・加工の動向」
事業者どうしの取引の場合、月末に締めて翌月に支払う掛け払いが多く見られます。ただし、支払い条件を取引前に書面で交わさなかった場合、支払いが遅れたときに請求の根拠が曖昧になってしまい、未回収につながるおそれがあります。
代金回収の方法は、次のようなものがあります。
- 初回は代金引換や前払いにし、取引が続いてから掛け払いに切り替える
- 事業者向けの請求書払いを代行する決済サービスを利用する
- マッチングサービス経由で取引する場合は、運営が請求・入金を代行するかどうか、手数料、入金時期を規約で確認する(代行の有無はサービスによって異なります)
どの方法でも、締め日と支払日、支払方法、振込手数料の負担、欠品や状態不良があったときの請求の扱いは、初回取引が始まる前に顧客と決めておきましょう。
継続取引につなげる品質と対応
一次処理(締め・血抜き・冷やし込み)の質を伝える
締め方や冷やし込みの方法によって、魚の鮮度の落ち方は変わります。ただ、手間をかけて処理をしても、飲食店に一次処理の詳細な内容が伝わらなければ、他の魚と同じものとして扱われてしまいます。
発送のたびに、漁獲日、締めた時間、締め方(活け締め・血抜き・神経締めなど)、保冷の方法を短いメモで添えておく事で、買い手はいつ捌くか、寝かせるかといった仕込みの段取りを決めやすくなります。締め方を指定できる場合は、それを価格表や案内にも記載すると、検討段階の方にとって有力な情報となります。
※漁業者が自分で獲った魚を洗浄、活け締め、血抜き、頭・内臓・鱗の除去、冷蔵・冷凍し、箱詰めして出荷する行為は、厚生労働省の通知で「採取業」として扱われ、食品衛生法上の営業許可・届出の対象外とされています。一方、魚を切り身にする、ゆでがに・ゆでだこを作る、業として魚を仕入れて同じ作業を行う、店舗を設けて販売するといった場合は、許可や届出が必要になります。飲食店側から「三枚におろして送ってほしい」と頼まれたときなど、対応する範囲を広げる前に、管轄の保健所へ確認してください。
参考:厚生労働省「農業及び水産業における食品の採取業の範囲について」(食品の採取業に関するQ&A、令和5年2月6日)
未利用魚・規格外の魚は調理方法やレシピ提案をセットで出す
名前が知られていない魚や、サイズがそろわない魚は、市場では値がつきにくい一方、飲食店にとっても扱い方が分からなければ仕入れにくい魚です。
出荷する際は、味の特徴、向いている料理(フライ、煮付け、干物など)、下処理の注意点(骨が硬い、皮に臭みがあるなど)、地元での食べ方を添えて届けましょう。最初はお任せ鮮魚ボックスの中に少量で入れて、評判が良ければ単品での注文を受けるという順序を踏むことで、飲食店側も仕入れるかどうかを判断しやすくなります。
連絡手段とトラブル時のルールを先に決めておく
直送の場合、天候や交通事情による配送の遅れ、到着時の状態不良、時化で出荷できない日が避けられません。このようなトラブルが起きてから対応を考えると、連絡が遅れ、最悪の場合取引が終了する原因になります。取引を始める前には以下のルールを顧客とすり合わせることが重要です。
- 漁に出ている時間は返信ができないなど、連絡が滞る可能性があることを伝え、LINE公式アカウントなど、その日の水揚げ情報や出荷の可否を確認してほしいなど、連絡手段に関してすり合わせる
- 出荷できない・遅れる場合は分かった時点で、発送前に必ず連絡する
- 状態不良の申し出については、到着当日中に写真付きで連絡してもらうなど、申し出の期限と方法を決めておく
- 補填が発生した場合、次回の値引き、代わりの魚の発送、返金など対応方法を確定する
取引先となる飲食店の見つけ方

自分の漁獲に合う取引先を選ぶ
取引先を探す前に、自分の漁獲がどんな業態に合うかを決めましょう。スーパーなどの量販店の場合は、定番の魚種を決まった量で納品できることを重視し、個人経営の飲食店や和食店、居酒屋は、少量で種類の多い納品や、市場に出回りにくい地魚を求める傾向があります。また、旅館・ホテルなどの宿泊施設も取引先の候補ともなります。
獲れる魚種、1回に出せる量、漁期を洗い出し、自社に合う業態を選ぶことで、闇雲な営業を避け、案内する相手を絞り込むことができます。安さではなく、締め方や鮮度、珍しい魚種といった魚へのこだわりや価値を評価してくれる相手を選ぶことは、価格の折り合いもつけやすくなります。
漁協の直売所・直販イベントを入口にする
所属する漁協が直売所や朝市、直販イベントを運営している場合、そこが地元の飲食店と接点を持つ入口になることもあります。
ただし、直売所に取引の案内書きを置けるか、飲食店と個別に取引してよいかは、漁協の規約や出荷のルールによって異なります。まずは所属漁協に確認し、漁協への出荷と両立できる形で進めましょう。また、厚生労働省の同通知では、漁業者が直売所や道の駅などの場所を借りて販売する場合、漁業者か直売所のいずれかが魚介類販売業の許可を取得している必要があるとされているため、きちんと確認してから取り入れてみましょう。
食材マッチングサービスに出品する
生産者と飲食店を直接つなぐWeb上のマッチングサービスに出品する方法もあります。利用している飲食店の層、手数料、決済を運営が代行するかどうか、配送の仕組みはサービスごとに異なるため、自分の魚種やロットに合うかを確認したうえで登録することをおすすめします。
登録後のプロフィールには、船や水揚げの写真、締め方や保冷の工夫、送料込みの価格を載せておくことで、飲食店が比較するときの判断材料になります。閲覧する飲食関係者が多い反面、自社を見つけてもらうまで待つ販路でもあるため、注文が入るまでに時間がかかることや、常に同業他社と比較されている部分には注意が必要です。
飲食店や宿泊施設へ商品案内を届ける
先ほど紹介したように直売所やマッチングサービスは、飲食店側に見つけてもらうのを待つ方法です。すでに取引したい地域や業態が決まっている場合は、こちらから商品案内を届ける営業方法として、FAXで商品案内を送ることも選択肢のひとつです。漁の合間に訪問や電話をするのは難しい事を踏まえ、仕込みの空き時間など、受け取った側も都合の良いときに内容を読むことができます。
送る際は、取引してくれるのであればどこでも良いと無闇に配信せず、鮮度を保って届けられる地域と、和食店・寿司店・居酒屋・宿泊施設など自分の魚が合う業態で絞り込みましょう。
直販と卸・市場出荷を組み合わせる
飲食店との直接取引は1件ごとの量が少なく、豊漁の日には獲れた魚をすべて直販でさばくことはできません。そこで、締め方や鮮度を評価してくれる飲食店には直販し、それ以外は市場出荷や、産地直送を扱う卸売業者に回すなど、複数の販路を組み合わせることで、手間を抑えながら売り残しを減らすことができます。また、卸業者をきっかけに自社では想定していなかった取引先を獲得できるなどの効果も期待ができます。
まとめ
漁師と飲食店の直接取引が続くかは、魚の質に加えて、飲食店が不安に思う総額・欠品・連絡・支払いを、取引を始める前に条件として決めておけるかで変わります。取引先は、直売所やマッチングサービスで待つだけでなく、自分の魚に合う地域・業態を選んで、こちらから案内する方法も組み合わせる事で販路を広げやすくなります。
まずは、送料込みの価格表、お任せ鮮魚ボックスの条件、支払い条件を設定し、その条件に付加価値を感じる相手を絞り込むことから始めましょう。営業に取り掛かる際、人手が足りない・提案方法がわからないと悩む場合は、営業のプロである営業代行を取り入れる事も選択肢の一つです。
飲食店や宿泊施設などに向けて営業したい、営業自体を外部に任せたい場合は、ご紹介したFAX営業代行もご検討ください。
米澤 俊一(よねざわ しゅんいち)
株式会社セールスマーケティングファーム代表
1979年横浜市出身。日本体育大学卒業。
IT企業で4年間Web運営に携わった後2008年に独立。
その後、福井県のベビーリーフ農家へ転身し、独自の営業手法を駆使してわずか2ヶ月でスーパー150店舗、レストラン400店舗との新規取引を開拓。ビニールハウス2棟から33棟への急拡大を牽引。OTAや農業ベンチャーの役員を経て、現在は営業職不在の中小企業を支援する営業代行会社の代表取締役。