介護タクシー開業で失敗する原因は?廃業率の実態と開業前の対策

介護タクシーの開業に向けて許可や資格、車両の情報を集め始めると、「開業したとしても、事業として続けられるのか」という点が気になってくるのではないでしょうか。

介護タクシーは車両1台から始められる一方で、介護保険の扱い、売上の仕組み、依頼の入り方に、一般のタクシーとも介護サービスとも違う特徴があります。ここを知らないまま開業すると、開業前の計画と実際の収入が大きくずれ事業が続かない可能性もあります。

この記事では、介護タクシー事業の廃業率について確認できる事実を押さえたうえで、開業後につまずきやすいパターン5つと、開業前に決めるべきルールについて解説していきます。

介護タクシーの廃業率は?公的な統計の有無と押さえておく前提

介護タクシーに限った廃業率を示す公的な統計は、確認できる範囲では公表されていません。 介護タクシーの許可を所管する国土交通省、介護保険を所管する厚生労働省の公表資料にも、「介護タクシー事業者の何割が何年で廃業したか」という形の数字は見当たりません。

インターネット上で見かける廃業率の数字は、個人事業全体や中小企業全体を対象にした調査であることがほとんどです。調査の対象も「廃業」の定義も異なるため、そのまま介護タクシーの実態として読み取ることはできません。数字を見かけたときは、いつ、どの業種・事業者を対象にした調査かを確認してから判断材料にしてください。

ですが、介護タクシーの廃業が話題になる背景として、事業の構造が関係しています。福祉輸送事業限定の許可は最低車両数1両から取得できるため、一人で開業することも可能です。その場合、運転と介助に加えて、予約の電話、営業、経理まで一人で担うことになり、依頼の減少や体調不良、車両の故障がそのまま売上の減少につながります。

開業を判断するうえでは、廃業率の数字を探すよりも、自分の開業計画がどこで崩れやすいかを事前に点検する方が役に立ちます。

介護タクシー開業で失敗しやすい5つのパターンと対策

介護保険を使える前提で開業してしまう

「介護タクシー」という呼び名から、運送業の許可を取れば介護保険を使ってサービスを提供できると考え、その前提で売上を見込んでしまうケースです。

介護タクシーの開業に必要な一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可は、要介護者や障害のある方などを運ぶための運送事業の許可です。 この許可だけでは、介護保険の請求はできません。介護保険で「通院等乗降介助」(車の乗り降りの介助や、受診手続きなどの介助)を算定するには、訪問介護事業所の指定を受ける必要があります。

訪問介護事業所の指定を受けられるのは法人です。介護保険法第70条第2項第1号に基づき、都道府県等の条例で申請者を法人と定めています。さらに、訪問介護員等を常勤換算で2.5人以上(サービス提供責任者を含む)配置し、常勤の管理者を置くといった人員基準を満たさなければなりません。そのため、個人事業のままでは自ら介護保険を請求できません。 

また、介護保険を扱う事業者であっても、移送にかかる運賃は介護保険の対象外で、利用者の負担になります。

項目福祉輸送のみ介護保険も扱う
必要な許可・指定福祉輸送事業限定の許可福祉輸送事業限定の許可+訪問介護事業所の指定
開業形態個人・法人法人
人員一人でも開業可能訪問介護員等 常勤換算2.5人以上、管理者など
利用者から受け取るもの運賃、介助などの料金運賃(保険対象外)、通院等乗降介助の利用者負担分など

対策は、開業形態を決める段階で、介護保険を扱うかどうかを決めておくことです。扱う場合は、法人を設立し、人員基準を満たす人を確保できるかを確認します。一人で始める場合は、介護保険を使わない前提で、運賃と介助などの料金だけで収支が成り立つかを考えます。

許可の要件は国土交通省の通達「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可等の取扱いについて」に、訪問介護事業所の指定要件は各都道府県・市町村の指定権者の案内にまとめられています。開業予定地の管轄窓口で確認してください。

売上の上限と固定費を見誤り、運転資金が尽きる

介護タクシーの収入は、運賃、介助などの料金、介護保険を扱う場合は通院等乗降介助の報酬で構成されます。 通院等乗降介助は令和6年度の介護報酬改定で1回97単位です。1単位あたりの金額は10円を基本に地域ごとに異なり、利用者はそのうち1〜3割を負担します。

見落とされやすいのは、一人・一台で運行する場合の1日に対応できる件数の上限です。迎え、乗降介助、移動、待機、帰りの送迎まで含めると1件あたりの拘束時間は長くなり、予約が同じ時間帯に重なれば受けられるのは「1件だけ」です。依頼が増えても、売上には物理的な天井があります。

一方で、固定費は依頼の有無にかかわらず発生します。車両のローンやリース料、任意保険、燃料費、車検・整備費、駐車場代、通信費などです。

対策として、開業前に「1件あたりの単価×1日に対応できる件数×稼働日数」で月の売上上限を出し、そこから固定費を引いて、手元に残る金額で生活できるかを試算してください。 あわせて、開業直後は依頼が少ない期間が続くことを前提に、売上が安定するまでの運転資金と生活費を、開業資金とは別に確保しておきましょう。

開業エリアの需要と既存事業者を調べずに始める

福祉輸送事業限定の許可の営業区域は原則として都道府県単位ですが、一人で運行する場合、実際に対応できる範囲はもっと狭くなります。その範囲に依頼が見込めるかを調べずに開業すると、許可は取れたのに依頼が来ない状態になりかねないので、開業前には次の2点を調べておきましょう。

  • 対応エリア内の居宅介護支援事業所、病院、介護施設の数と所在地
  • 対応エリア内で営業している介護タクシー事業者の数、料金、対応範囲

既存の事業者が多いエリアでも開業はできますが、その場合は依頼元に自社を選んでもらう理由とメリットを示す必要があります。この点は後述の「頼む理由」で解説致します。

開業時点で依頼元がない

許可申請、法令試験、車両の準備に追われて、営業を開業後に回してしまうパターンです。介護タクシーの依頼は利用者本人や家族から直接入るだけでなく、ケアマネジャーや病院の相談員を経由して入ることもあります。依頼元に知られていない事業者は、手配の候補にすら入らず、開業日を迎えた時点で依頼元との接点がなければ、開業直後の売上は立ちません。

福祉輸送事業限定の許可は、運輸局の案内で標準処理期間が2ヶ月(書類の補正にかかる期間は含まない)とされています。許可後も、運賃の認可申請や車両の登録などを経て、1年以内に運輸を開始する流れになります。

この申請中から運輸開始までの期間は、依頼元の洗い出しや、営業の準備をする期間となります。

依頼元に「頼む理由」が伝わらない

依頼元になる施設や事業所には、すでに付き合いのある介護タクシー事業者が基本います。 そんな中「介護タクシーを始めました」と伝えるだけでは、相手にとって新しい事業者に頼む理由がありません。

依頼元が手配先を選ぶときの判断材料になるのは、何に対応できる事業者なのかです。 たとえば、次のような対応範囲を具体的に示すことで、「この利用者ならこの事業者に頼める」と判断しやすくなります。

  • 車いす・ストレッチャーでの乗車、階段の昇降介助
  • 院内での付き添い、薬の受け取り、買い物の同行
  • お墓参りや冠婚葬祭への同行、長距離の移動
  • 透析の通院、退院時の送迎など、特定の場面への対応

対応範囲を示すときは、乗務員ができることを正確に書いてください。たとえば喀痰吸引は医行為にあたり、介護職員が行うには研修の修了、都道府県の認定、事業者としての登録が必要で、医師の指示のもとで行うものです。要件を満たさないまま「吸引にも対応」と案内することはできません。

接遇も依頼元の判断材料になります。利用後の利用者や家族の様子は、依頼したケアマネジャーや相談員にも伝わります。丁寧な運転や声かけ、時間を守ることの積み重ねが、次の依頼につながります。

開業前から依頼元をつくる方法

依頼元になる施設・事業所を洗い出す

介護タクシーの依頼元になりうるのは、主に次のような施設・事業所です。 

  • 居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)
  • 病院の地域連携室、医療ソーシャルワーカー
  • 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホームなどの介護施設
  • 透析クリニック

対象となる事業者や施設を洗い出したら、自分の対応エリアと対応範囲に合う先に絞り込みます。この時、件数を増やすことよりも、依頼を受けたときにすぐ駆けつけられる距離かどうかを優先してください。遠方の施設から依頼が来ても、予約時間に間に合わなければ受けられません。

対応エリアの施設・事業所が実際にどのくらいいるのかを把握する場合は、営業リストサンプルも参考に活用ください。

資料を「控えておいてもらう」接点をつくる

依頼元との接点のつくり方には、挨拶訪問、資料の持参・送付などがあります。訪問は顔を覚えてもらいやすい反面、運転や介助と並行すると回れる数が限られ、訪問しても担当者が不在の事も多いので、サービス内容を伝える資料を渡すことを目標に回りましょう。

資料には、対応エリア、対応範囲、料金の目安、連絡方法と受付時間、開業予定日など、事業者や施設側が知りたい情報をまとめます。許可前の段階であれば、運送の予約は受けられないため、「開業予定」の案内として資料を渡すところまでにとどめます。

ここで大切なのは、いきなり乗り換えを求めないことです。 依頼元にはすでに付き合いのある事業者がいる前提で、「いつもの事業者が手配できないときの選択肢として、資料を手元に置いておいてほしい」と伝えることで、相手も受け取りやすくなります。また、人手が少ない状態でも効率よく資料を送付したい場合は、FAX営業が効率的です。

なお、ケアマネジャーは、特定の事業者を利用させる見返りとして金品その他の財産上の利益を受け取ることを、運営基準(指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第25条第3項)で禁じられているため、紹介料や謝礼を提示する営業は避けてください。

営業に取り組む際は以下の事例も参考にお読みください。

栃木県の介護タクシー事業者が介護施設・病院へFAX営業|882件配信で反応率2.04%、配信直後から問い合わせが入った事例

開業支援・フランチャイズを使う場合の確認点

開業支援サービスは、許可申請の書類作成から車両の手配、事業計画づくりまで、事業者によって支援の範囲が異なります。支援サービスの利用を検討している場合は、費用と、支援がどこまで含まれるかをきちんと確認してください。とくに、許可申請だけの支援であれば、開業後の営業活動は自分で行う必要があります。

フランチャイズに加盟する場合は、加盟金やロイヤリティなどの継続的な費用、本部からの仕事紹介の実態(紹介件数の実績、同じエリアの加盟店の有無)、独自サービスや料金設定の制限を確認しましょう。継続的な費用は、先に試算した固定費に加えて収支を見直してください。

どちらも、使うかどうかより、自分が不安に感じている部分(手続き、資金計画、依頼元づくりなど)を実際に補ってくれるかで判断するのが現実的です。 

まとめ

介護タクシーに限った廃業率の公的統計は確認できる範囲で公表されておらず、廃業が話題になる背景には、一人・一台で運営する事業の構造があります。失敗を避けるには、開業前に次の3点を、この順番で決めておくことが大切です。

  • 介護保険を扱うかと開業形態:扱うなら法人化と人員の確保が必要。一人で始めるなら、保険を使わない前提で計画する
  • 運転資金:売上の上限と固定費から月の収支を試算し、依頼が安定するまでの資金を確保する
  • 開業時点の依頼元:許可申請中の期間を使い、対応エリアの施設・事業所に「控えておいてもらう」接点をつくる

なかでも依頼元探しは、開業準備や開業後の運行と並行して進めにくい作業です。運転や介助で営業に手が回らない場合は、営業活動を外注する事も方法の一つです。

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