工務店やリフォーム会社に見積もりを出すたびに、同業他社と単価だけを比べられる場面が増えていないでしょうか。住宅着工が減り、既存顧客1社あたりの発注量も細るなかで、建材卸の取引を左右しているのは「価格以外で選ばれる理由」を示せるかどうかです。
この記事では、建材卸が商流の中で担っている役割と取引環境の変化を確認したうえで、工務店が仕入れ先を選ぶ基準、選ばれ続けるための取引の土台と提案の具体策、既存顧客だけに頼らない取引先の広げ方まで詳しく解説します。自社がどこから手を付けるべきかを判断する材料としてお使いください。
建材卸の役割と、取引環境が厳しくなっている理由
建材卸がメーカーと工務店の間で担っている役割
建材卸の役割は、メーカーの商品を工務店へ流すことだけではありません。1棟の住宅には、構造材や合板、断熱材、サッシ、屋根材、内装材、住宅設備など、多くのメーカーの資材が使われます。建材卸はこれらを品揃えとして1か所に集約し、工務店がメーカーごとに個別の取引をしなくても資材をそろえられる状態をつくっています。
加えて、在庫を持って小口で配送すること、工程に合わせて納期や搬入の段取りを調整すること、メーカーの新商品や仕様変更の情報を現場目線で橋渡しすることも、建材卸が担う機能です。工務店から見れば、発注・在庫・配送・情報収集の手間を建材卸に預けている形になります。
この「預かっている手間」が、建材卸が価格以外で示せる価値の中身です。後ほどご説明する扱う選定基準や提案策も、すべてこの役割をどれだけ抜けなく、どれだけ先回りして果たせるかに関わっています。
住宅着工の減少と、資材の価格上昇・供給不安
主な販売先である工務店・リフォーム会社の仕事量は、住宅着工の動きに左右されます。国土交通省の建築着工統計調査報告によると、2025年度(令和7年度)の新設住宅着工戸数は71万1,171戸で、前年度比12.9%の減少でした。持家・貸家・分譲住宅のいずれも減っています。
着工が減れば、取引先の顔ぶれが変わらなくても1社あたりの発注量は減ります。取引先数はそのままで売上だけが下がっていく、という形で影響が表れやすいのが建材卸の特徴です。
資材面では、2026年春に中東情勢の変化を受けて、ナフサ(石油化学製品の原料)由来の建材に混乱が生じました。4月には住宅設備・建材メーカーがユニットバスや防水材の一部で新規受注を一時停止し、断熱材や塗料用シンナー、塩ビ管などでは値上げや価格改定が相次ぎました。ユニットバスの受注は4月下旬から段階的に再開されています。
その後も流通の混乱は尾を引き、国土交通省は2026年6月16日から、ナフサ由来資材の供給の偏りや流通の目詰まりを踏まえて、代替資材の調達などで追加になった経費を設計変更で計上する運用を直轄工事に導入しました。夏以降も同様の運用を定める自治体が続いており、執筆時の2026年10月でも品目や地域によって状況は異なります。(参照:中東情勢の変化による建設資材への影響に係る直轄工事の対応について|国土交通省)
価格だけで比べられやすくなる構造
発注量が減ると、工務店は1件ごとの仕入れコストに敏感になります。資材価格が上がっている局面ではなおさらで、複数の建材卸から相見積もりを取り、単価で発注先を決める動きが強まります。建築資材の通販サイトも検索すればすぐに見つかるため、価格を比べる手段は以前よりも身近になりました。
一方で、先ほどお伝えした品揃え、在庫・配送、段取り、情報提供といった役割は、見積書に金額として表れません。工務店に伝わっていなければ、比較の材料は単価しか残らないということです。価格競争から抜け出す出発点は、この見えにくい価値を、顧客が判断に使える形で示すことにあります。
工務店・リフォーム会社が建材卸を選ぶ基準
工務店・リフォーム会社は、価格だけで仕入れ先を決めているわけではありません。現場を止めない、施主との約束を守るといった自社の事情から、次のような点を見ています。建材卸の側では、各基準に対して自社が何を示せるかを整理しておくと、営業や提案の場面で価値を伝えやすくなります。
| 顧客が見ている基準 | 背景にある現場の事情 | 建材卸が示せる材料 |
|---|---|---|
| 価格 | 着工減・資材高で工事の利益が圧迫されている | 材料費に施工手間を含めた総額、見積もりの有効期限 |
| 納期の正確さ | 搬入が遅れると職人の手配や工程全体がずれる | 回答までの時間、回答した納期を守る運用 |
| 品揃え・代替提案 | 欠品や廃番で仕様を変えざるを得ないことがある | 取扱メーカーの幅、同等品を示せる商品知識 |
| 配送の柔軟さ | 工程変更があり、資材置き場の狭い現場もある | 小口配送・分納、工程に合わせた搬入日の調整 |
| トラブル時の対応 | 誤納品や破損で現場が止まると損失が大きい | 初動の速さ、代替品の手配体制 |
| 情報提供 | 制度変更や価格改定を自社だけで追いきれない | 改定・供給見通しの事前案内、新商品・工法の情報 |
表のうち価格以外の5項目は、いずれも前章で挙げた建材卸の役割そのものです。次章では取引の前提となる納期・配送・トラブル対応への応え方、品揃えと情報提供を生かした提案の方法を扱います。
選ばれ続けるための取引の土台
提案力を高めても、見積もりが遅い、納期がずれる、トラブル時に連絡がないといった状態では、提案を聞いてもらう前に取引先を替えられてしまいます。まず整えるべきは、日々の対応で信頼を損なわないことです。
見積もりと納期回答の速さ・正確さ
工務店は、建材卸の見積もりをもとに施主への見積もりや工程表を組みます。回答が遅れれば、その分だけ工務店の仕事も止まります。
すぐに回答できない場合でも、「いつまでに回答するか」をその場で伝える運用にするだけで、工務店は段取りを組みやすくなります。メーカーへの確認が必要な商品なら、確認中であることと回答予定日を先に伝え、約束した期日を守ります。納期回答も同様で、曖昧な見込みを伝えるより、確定している部分と未確定の部分を分けて伝える方が、工務店は工程を調整しやすくなります。
現場に合わせた配送と欠品時の代替手配
現場の搬入日は、天候や前工程の遅れで変わります。工程変更に合わせた搬入日の変更や、資材置き場の狭い現場への小口配送・分納に応じられることは、工務店にとって大きな助けになります。
欠品が分かったときは、入荷見込みとあわせて同等品の候補を示すことが大切です。工務店が自分で代替品を探す手間が省けるうえ、施主にも説明しやすくなります。性能や施工方法の違い、価格差を併記しておくと、工務店はその場で判断できます。
トラブル発生時の対応
誤納品や配送中の破損は、どれだけ注意していてもゼロにはできません。発生したときは、原因の説明よりも先に、現場を止めないための手配を最優先します。正しい品や代替品をいつ届けられるかを伝え、必要であれば別便で届けます。
原因の確認と再発防止策の報告は、現場が動き出した後で構いません。ただし報告は省かずに行いましょう。トラブル時の対応が誠実であれば、かえって信頼が深まることもあります。
建築資材の提案力を高める具体策
言われた品番をそのまま見積もるだけの「御用聞き」では、比べられる材料は単価しか残りません。工務店が注文を出す背景にある目的や困りごとを聞き取り、建材卸の知識で解決策を示す「課題解決型」の営業へ切り替えることが、価格以外で選ばれる理由になります。
図面・注文の背景を聞き出すヒアリング
提案の前提になるのはヒアリングです。「必要な建材はありませんか」と聞くだけでは、工務店からは品番や数量しか返ってきません。業務の流れや現場の困りごとに焦点を当てた質問に変えると、提案の手がかりが見えてきます。
- 最近の現場で、工期が遅れがちな工程はどこですか?
- 職人さんの手配で困っている職種はありますか?
- この仕様は施主の希望ですか、それとも御社の標準仕様ですか?
- 確認申請の図書づくりで、負担が増えた部分はありますか?
- 価格改定や欠品で、施主への説明に困った資材はありますか?
上記で上げた質問の例を聞き取った際、内容は顧客ごとに記録し、担当者が替わっても引き継げるようにしておきます。各現場の癖や好みを把握したうえで先回りして手配できることは、メーカーから直接買う場合にはない建材卸ならではの価値になります。
省力化・工期短縮につながる建材をトータルコストで提案する
人手や工期に余裕のない現場では、施工の手間を減らせる建材が役立ちます。工場で加工を済ませたプレカット材、乾燥待ちの少ない乾式工法の建材、軽量で扱いやすい屋根材などがその例です。
こうした建材は、材料単価だけを比べると割高になる場合があります。そこで、材料費に施工手間(職人の工数や工期)を加えたトータルコストで比較して示します。材料費の差と、施工日数がどれだけ短くなるかを並べて示せば、工務店は施主への見積もりや工程表にそのまま反映でき、話を単価の比較から移しやすくなります。
制度変更を踏まえた提案
2025年4月から、原則としてすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられました。同時に、木造2階建て住宅などの建築確認手続きが見直され(いわゆる「4号特例」の縮小)、確認申請の際に構造や省エネ関連の図書の提出が必要になっています。
参照:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第69号)について|国土交通省
工務店にとっては、断熱材やサッシの仕様が基準を満たしているかの確認と、申請図書の作成という負担が増えた形です。建材卸は、基準を満たす断熱材・サッシなどの組み合わせを示したり、メーカーが用意する性能値の資料や仕様書をそろえて渡したりすることで、この負担を軽くできます。省エネ性能を仕様基準で確認している工務店には、それに沿った組み合わせの一覧を用意しておくと、そのまま設計に使ってもらいやすくなります。
制度の解釈や申請手続きは設計者の領域です。建材卸は、その判断に必要な資材側の情報を早くそろえる役割に徹すると、工務店も相談しやすくなります。
価格変動・供給不安の局面で情報を先に届ける
ナフサ問題のように資材の価格や供給が不安定になる局面では、工務店は施主と約束した金額や工期を守れるかを気にしています。こうしたときに頼りにされるのは、情報を早く正確に届けてくれる建材卸です。具体的には、次のような対応が考えられます。
- メーカーの価格改定や受注停止の情報を、把握した時点で取引先へ共有する
- 欠品や納期遅延の見込みがある品目について、代替品の候補を先に示す
- 見積書に有効期限を明記し、期限後に価格が変わる可能性を伝えておく
- 着工時期が決まっている案件について、前倒し発注や在庫確保の相談に応じる
国土交通省は2026年4月の時点で、ナフサ由来の化学製品は年を越えて供給を継続できる見込みだとしています(参照:建設資材の安定供給に向けたご協力について(周知及び依頼)|国土交通省)。それでも6月に設計変更の運用を導入したのは、前述のとおり流通の偏りや目詰まりが生じていたためです。現場の困りごとが「物がない」ことより「どこにあるか、いつ届くかが分からない」ことにあるなら、メーカーと工務店の間に立つ建材卸の情報が、そのまま工務店の判断材料になります。
既存顧客との取引を深める仕組み
工務店は、複数の建材卸と取引を分けていることも少なくありません。既存顧客の発注を自社に集めるには、提案や情報提供の機会を担当者個人の頑張りに頼らず、仕組みとして続けることが必要です。
訪問・連絡のたびに役立つ情報を渡す
案件が終わった後も定期的に接点を持つことは大切ですが、用件のない訪問は相手の時間を奪うだけになりがちです。訪問や連絡のたびに、新商品のサンプル、他の現場での使われ方、価格や供給の見通しなど、工務店の仕事に使える情報を1つ持っていくと決めておきます。
情報の準備を担当者任せにせず、社内で「今月顧客へ伝える情報」を共有しておくと、担当者による差が出にくくなります。こうした接点が続けば、次の案件が発生したときに最初に相談される立場になりやすくなります。
受発注の手間を減らす
電話での受発注は、聞き間違いや確認の手間が生じやすい方法です。Web受発注や在庫照会の仕組みを用意し、工務店がスマートフォンやパソコンから在庫確認や発注、過去の発注履歴の参照をできるようにすると、発注そのものの手間が減ります。
すべての顧客がWebへ移るとは限らないため、従来の電話・FAXでの受注も残しながら、使いやすい方法を選んでもらう形が現実的です。「発注が楽で間違いが少ない」という評価は、価格とは別の取引継続理由になります。
既存顧客だけに頼らず取引先を広げる
ここまでの取り組みで既存顧客との関係やそれに付随する取引は深められますが、前述の着工減の影響で、顧客1社あたりの発注量そのものが減っていく可能性は残ります。取引先が少数に偏っていると、1社の発注減や廃業がそのまま売上に響きます。既存顧客の深耕と並行して、取引先を分散させておくことも自社の経営や取引の幅を増やすことに繋がります。
対象企業を探すときは、やみくもに広げるのではなく、自社の品揃えと配送エリアから逆算して絞り込むのが基本です。配送できる範囲にある地域の工務店・リフォーム会社のほか、取扱品目によっては内装・外装・屋根・防水などの専門工事業者も候補になります。既存顧客の業種や発注品目の傾向を見直すことで、自社と相性のよい取引先のイメージをつかみやすくなります。業種・地域で絞り込んだ営業先の候補は、サンプルリストを活用してご確認ください。
また、新しい取引先との接点をつくる手段はテレアポ、訪問、既存顧客からの紹介など様々ですが、工数や効率を重視する場合はFAXを活用すると、素早く提案することができます。実際にFAXを活用して成果を出した企業の事例を紙面つきでご紹介しておりますので、参考にしてください。
まとめ
建材卸が工務店に選ばれ続けるための取り組みには、優先順位があります。
最初に固めるのは、見積もり・納期回答の速さ、現場に合わせた配送、トラブル時の初動という取引の土台です。ここが揺らいでいると、提案を聞いてもらう段階に進めません。
次に、ヒアリングを起点として、トータルコストで示す省力化建材の提案、制度変更を踏まえた仕様の提案、価格変動・供給不安時の早めの情報提供によって、価格以外で選ばれる理由をつくります。
そのうえで、着工減による発注量の減少に備え、自社の品揃えと配送エリアに合う取引先を広げる準備を進めましょう。少人数で新規の取引先開拓まで手が回らない場合は、営業を外注するという方法もございます。まずは自社が取り入れられる方法から取り掛かってみましょう。
米澤 俊一(よねざわ しゅんいち)
株式会社セールスマーケティングファーム代表
1979年横浜市出身。日本体育大学卒業。
IT企業で4年間Web運営に携わった後2008年に独立。
その後、福井県のベビーリーフ農家へ転身し、独自の営業手法を駆使してわずか2ヶ月でスーパー150店舗、レストラン400店舗との新規取引を開拓。ビニールハウス2棟から33棟への急拡大を牽引。OTAや農業ベンチャーの役員を経て、現在は営業職不在の中小企業を支援する営業代行会社の代表取締役。