
商品には自信があるのに、売上の多くを長年付き合いのある一部の取引先に頼っている。新しい取引先を増やしたいが、製造や配送の合間に新規開拓へ回せる人も時間もない。食品メーカーや食品卸の経営者・営業責任者から、よく聞かれる悩みです。
食品の販路拡大は、営業の手段を選ぶより先に「どの業態へ広げるか」を決めると進めやすくなります。理由として、同じ食品でも飲食店、スーパー、惣菜・弁当の製造業者では、仕入れのときに確認されることが違うためです。広げる先が決まれば、営業の際に伝える情報が決まり、接点を作る手段も自社の人手と費用に合わせて選べます。
本記事では、自社商品の使い道から新しい販路の候補を出す考え方、業態ごとに仕入れで確認されること、展示会・FAX・Webなど接点をつくる手段の選び方、接点ができた後に価格以外で選ばれ、取引を続けるための提案と対応について解説します。
食品の販路拡大が進まない理由と背景

長年の取引先との安定した取引は強みですが、売上の多くを特定の取引先に頼っていると、相手の業績悪化やメニューの変更、取引の打ち切りがそのまま自社の売上減につながります。常連の取引先からの注文が減ってから新しい取引先を探し始めても、商談から納品が始まるまでには時間がかかるため、その間の売上の穴を埋めにくくなります。
一方で、営業担当者が既存の取引先への配送や受注対応を兼ねている会社では、新規開拓に回す時間がないのが実情です。さらに、どの相手に、何を、どう案内すればよいかというノウハウが社内に蓄積されていないと、手が空いたとき何から始めればよいか決められません。
限られた時間で取引先を増やそうと値下げを提案内容として提示すると、相手はほかの仕入れ先と単価だけで比べることになります。原材料費や物流費が上がっている中で価格を下げて取引を取っても、利益の残らない取引先が増えるだけになりかねません。価格以外に比べてもらえる材料を持ち、その材料を評価してくれる相手を選んで案内することが、販路拡大の出発点になります。
新しい販路をどの業態に広げるか
自社商品の使い道から、広げる業態の候補を出す
新しい販路を探すとき、今の取引先と同じ業態の中だけで相手を探すと、すでに別の仕入れ先が決まっている相手との取り合いになります。先に、自社商品が「相手のどの商品・メニュー・売場の、どの作業に使えるか」を言語化することで、これまで取引のなかった業態が取引先の候補に挙がります。
例えば、居酒屋向けに提案している揚げ物の冷凍品があった場合、惣菜の一品として惣菜店やスーパーの惣菜売場で使える可能性があります。カットや下処理を済ませた野菜を取り扱っているのであれば、飲食店のほか、弁当や惣菜を製造する事業者や給食センターなども候補になります。このように候補が挙がったら、業態ごとに以下の2点を確かめ、さらに絞る事で、見当違いの営業を防ぎながら、より確度の高い提案が可能になります。
- 相手に、今の仕入れ先から切り替える理由があるか(作業が減る、商品の種類を増やせる、少量から試せる など)
- 自社の規格・ロット・配送エリアで、その業態の注文に応えられるか
業態ごとに仕入れの際に確認されることを比べる
どの業態でも、欠品なく届くか(安定供給)、品質と衛生管理、価格の3点は共通して確認されます。衛生管理については、改正食品衛生法により2021年6月から原則としてすべての食品等事業者にHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められており、取引を始める前に、仕入れ先の衛生管理の取り組みや原材料の履歴(トレーサビリティ)を確認されることがあります。(参考:厚生労働省「HACCP(ハサップ)」)
そのうえで、業態によって重視する点と、新しい仕入れ先を検討するタイミングが異なります。
| 業態 | 主に確認されること | 採用を検討するタイミングの例 | 先に用意しておく材料 |
| 飲食店 | メニューに合う規格・味、仕込みの手間、小ロットで頼めるか、急な注文に対応できるか | メニュー改定、新店の開店 | 使えるメニューの例、規格、最低発注量、サンプル |
| スーパー・小売 | 売場での見せ方、価格帯、欠品しない供給量、納品条件(物流センターへの納品など) | 棚替え、季節の売場づくり | 商品規格書、ケース入数、販促物の有無 |
| 惣菜・弁当(中食) | 調理工程に組み込めるか、まとまった量を安定して届けられるか、使用量あたりの原価 | 新メニューの開発、季節の入れ替え | 使用量あたりの原価、加熱・保存の条件 |
| パン屋など専門の製造小売 | 自店の商品に合うサイズ・形状か、少量から頼めるか | 新商品の開発 | 用途に合わせた規格(サイズ・重量)、少量の注文条件 |
取引のない相手と接点を作る方法

前章で決めた業態の相手に自社を知ってもらう手段は、自社の人手と費用、案内したい相手の数で選びます。
| 手段 | 向いている状況 | 自社にかかる負担 | 注意点 |
| 飛び込み・電話 | 配送ルートの近くなど、地域を絞れる | 営業担当の時間 | 相手の忙しい時間帯を避ける |
| 既存取引先からの紹介 | 取引先と信頼関係ができている | 少ない | 件数を自社で増やしにくい |
| 展示会・商談会 | 新商品を多くの仕入れ担当者に一度に見せたい | 出展費、準備、当日の人員 | 開催が年に数回に限られる |
| FAX | 業態・地域を決めて、多くの事業者に一度に案内したい | 紙面づくり(外注も可) | 送信者情報の明記、送信停止の申し出への対応 |
| マッチングサイト・卸売サイト・自社サイト | 仕入れ先を探している相手に見つけてもらいたい | 掲載情報の作成・更新 | 掲載してすぐ問い合わせが来るとは限らない |
以下では、展示会・商談会、FAX、Webの3つを、食品の販路拡大で使うときの進め方を説明します。飛び込み・電話の進め方や、既存の取引先から紹介を得る仕組みの作り方は、以下の記事で解説していますので、ご確認ください。
食品卸が飲食店の新規開拓で価格競争を抜け出す方法|安さを生かす提案と接点の作り方
展示会・商談会は、出展前にサンプル送付と連絡の段取りを決めておく
食品の商談展示会には、新しい商材を探している仕入れ担当者が来場します。全国規模のものでは、FOODEX JAPANや、スーパーマーケット・トレードショーなどがあります。展示会ごとに来場する業態が違うため、自社で確定したターゲットとなる業態の仕入れ担当者が集まる展示会かどうかを出展案内の来場者層で確かめてから選びます。大規模な展示会のほか、地域の商工会議所や金融機関、自治体が開く個別の商談会もあるので、意欲の高い方へ直接アピールできます。
ブースでは、試食や調理の実演で味と使い方を体感してもらいます。そのうえで、名刺を交換した相手へのお礼の連絡とサンプルの送付を会期中か翌日に行えるよう、送り状、サンプルの在庫、連絡担当者を出展前に決めておきましょう。会期後の連絡が遅れると、相手は多くの出展者と比べる中で自社を思い出しにくくなるためです。
小規模事業者であれば、展示会への出展費用が小規模事業者持続化補助金の補助対象経費になる場合があります。対象となる経費や公募の時期は回によって変わるため、申請を考える場合は最新の公募要領で確認してください。
FAXで業態を絞り、使い道とサンプル申込を案内する
FAXを営業に活用する際は、自社の強みに価値を感じる業態と配送できる地域で送り先を絞り、多くの事業者にサービスや商品の魅力を一瞬で広範囲に届けたいときに使える手段です。営業先リストの業種分類で、細かい業態まで絞り込めるかは収集方法によって異なるため、事前に確認します。
配信する紙面には、次の4点を載せましょう。
- 相手のどの商品・メニューに使えるか
- 規格(サイズ・重量・入数)
- 最低発注量と配送エリア
- サンプルの申込方法
返信のお願いは、発注ではなくサンプル送付に関する許可に置きます。取引のない相手でも、まず試してみるだけなら返信しやすいためです。
この紙面構成で成功した例として、海外のグループ工場で製造した冷凍カツを国内で業務用に販売する、神奈川県の食品会社の事例があります。基本の取引先は居酒屋や卸業者が中心でしたが、取引経験の無いパン屋に向けてFAXを配信し、返信・問い合わせを120件(反応率1.50%)獲得。その時使用した紙面では、サンドイッチやハンバーガーの具材という使い道を詳細に記載し、返信のお願いは発注ではなく無料サンプルの送付確認にしていました。
実際に活用した紙面の内容については以下の記事でより詳細に記載しております。
冷凍えびカツの食品会社がパン屋へFAX営業|8,000件配信で反応率1.50%、50件の契約につながった事例
仕入れ先をネットで探している相手に見つけてもらう
取引先を探している方の中には、インターネットで仕入れ先を探す店もあります。「業務用食材 仕入れ」「業務用 食材 卸」といった検索キーワードは月に数十〜200回ほど検索されており、検索結果には食材の卸会社や仕入れサイトが並びます。
マッチングサイトや卸売サイトに商品を掲載すると、仕入れ先を探している相手の目に触れる場所を増やせます。一方で、同じ画面でほかの仕入れ先と並べて比べられるため、マッチングサイトなどのプラットフォームに掲載しただけで問い合わせが来るとは限りません。比較された時、自社を選ぶ理由となる、使い道・規格・少ロットから頼めるなどといった、顧客が知りたい情報を具体的に載せておきます。
また自社サイトの場合、業態ごとの使い道、規格、最低発注量、配送エリア、サンプルの申込方法、衛生管理の取り組みなど、サービスに関わる詳細情報を載せておくと、検索エンジンだけでなく、「AI検索」でも仕入れ先を探している相手に見つけてもらう機会を作れます。生産の背景や調理例、他店での使われ方を載せておけば、相手は問い合わせる前に自店に合うかを判断できます。Webで受発注できる仕組みがあれば注文までつなげられますが、まずは問い合わせやサンプルの申込ができるページをサイトに充実させることから始めてみましょう。
自社サイトに商品の使い道や規格の情報を充実させ、様々な検索を活用し仕入れ先を探している事業者に見つけられるサイトにするには、定期改善と更新が重要です。自社での運用が厳しいと感じる場合は、運用を外部に委託することで作業の手を止めることなく新規開拓ができるサイトへ改善できます。
新しい取引先に選ばれ継続利用されるための提案と対応
相手の業務の課題を聞いてから提案を組み立てる
商談では、探している食材や希望の価格だけでなく、相手の店舗運営や製造の課題をヒアリングすることが重要です。確認する項目は最低でも次の3つを確認しましょう。
- 厨房や製造の現場で、人手が足りない工程はどこか
- 仕込みの手間や廃棄が多い品目はあるか
- これから取り込みたい客層や、強化したいメニュー・売場はあるか
ヒアリングした課題に自社商品の特徴を結びつけると、価格以外で比べてもらえる判断材料になります。希少な原材料や無添加といった商品の特徴、生産者のこだわりに加えて、下処理済みで店の仕込みの手間が減るといった相手の作業に関わる価値も材料です。ヒアリングを汲み取った提案が刺さると、単価が今の仕入れ品より高くても、仕込みの手間や廃棄が減るならと検討してもらえることがあります。
提案時には、その食材を使ったメニュー案、1食あたりの原価の試算、売場で使える販促物など、導入した後の使い方まで提示する事が大切です。取引先が売場やメニューで打ち出したいテーマ(無添加、プラントベース、食品ロスの削減など)に自社商品が合う場合も、提案材料の一つになります。
初回納品後の対応と商談の記録で、次の提案につなげる
新しい取引先と取引が続くかどうかは、初回納品後の対応に左右されます。見積もりや問い合わせにはできるだけ早く返答する、欠品や納品の遅れが起きそうな場合は分かった時点で連絡し、代わりの品を提案する、ときどき店舗や売場に足を運んで商品の使われ方を確かめる、といった対応が、顧客側が仕入れ先を見直すときの判断材料になります。
あわせて、取引先ごとに商談の内容、発注の頻度、取引に至らなかった場合はその理由を記録することが大切です。取引に至らなかった理由や懸念点を見直すことで、取引先ごとのメニュー改定や棚替えの時期が見えてくるため、時期や季節に合わせた新商品を提案できます。
まとめ
食品の販路拡大は、営業の手段より先に「どの業態へ広げるか」を決め、その業態が仕入れで確認することに合わせて案内を組み立てると進めやすくなります。
最初の一歩として、自社商品の使い道を洗い出し、候補の業態を絞ったうえで業態ごとの規格、最低発注量、サンプルを渡す条件を決めましょう。提案企業が確定したら自社で取り掛かることができる営業手法から少しずつ始めることが大切です。
もし営業マンが社内にいない、人手不足で営業に割く時間が無いと悩む場合は、案内する業態の選定から営業先リストの準備、サービスの説明をまとめたFAX紙面の作成・配信をまとめて代行するFAX営業代行をご検討ください。
米澤 俊一(よねざわ しゅんいち)
株式会社セールスマーケティングファーム代表
1979年横浜市出身。日本体育大学卒業。
IT企業で4年間Web運営に携わった後2008年に独立。
その後、福井県のベビーリーフ農家へ転身し、独自の営業手法を駆使してわずか2ヶ月でスーパー150店舗、レストラン400店舗との新規取引を開拓。ビニールハウス2棟から33棟への急拡大を牽引。OTAや農業ベンチャーの役員を経て、現在は営業職不在の中小企業を支援する営業代行会社の代表取締役。