
物流業界の多重構造と
人手不足を突破する「営業力」の重要性

日本の運輸業における中小企業は、資本金3億円以下、または従業員300人以下と定義されています。道路貨物運送業では、事業者の99.9%が中小企業であり、そのうち従業員10人以下の零細事業者が約半数(49.1%)を占める、多重下請け構造が業界の特徴です(参照:国土交通省中国運輸局資料)。
この構造の中で人手不足を根本から解決するには、採用活動の強化だけでは不十分です。新規荷主の効率的な開拓と直接受注により中間マージン(仲介手数料)をカットし、確保した利益をドライバーの給与向上や待遇改善へ還元する、この循環を作れるかどうかが、人が集まる企業体質へと変わっていくための分かれ目になります。
人手不足への対策というと、モーダルシフトや自動化、労働環境の整備など「守り」の施策が語られることが多くなっています。もちろんそれらも重要ですが、営業力を高めて収益性そのものを自らコントロールする「攻め」の視点も、同じくらい経営に直結する打ち手です。営業を「会社を健全化するための最も重要なタスク」として捉え直すことが、この先の差につながります。
専門業種の強みを活かしたターゲット選定と直接取引の実現
チャーター便やバイク便などの専門輸送は、「一般的な混載の配送網では対応しきれない特殊なニーズに応えられること」が最大の強みです。車両を丸ごと借り切るため他社荷物との積み替えが発生せず、破損・誤配送のリスクが低いこと、荷主の指定時間に合わせた柔軟な配送が可能なことがメリットとして挙げられます。
この強みが特に活きるのは、精密機器や医療機器のメーカー・工場など、荷物の破損や遅延がそのまま大きな損失につながる法人です。深夜・早朝納品や当日中の直行便といった、シビアな時間指定への対応力も比較検討の判断材料になります。コストよりも輸送品質・スピードを優先する荷主層こそが、直接取引を提案すべきターゲットです。
こうした接点のない優良顧客へ効率的にサービスを提案する手法として、FAXDMの活用も有効です。FAXDMは特定商取引法の規制対象外であり、手法自体に法的な問題はありません(個人宅を営業所や事業所としている個人事業主などは送付対象外)。ただし、送信停止の依頼があった場合には速やかに対応し、送信者情報を明記するなど、相手先との関係を損なわない運用が前提となります。
自社でリスト作成から原稿制作、配信までの体制を整えるのが難しい場合は、ターゲット企業リストの準備から配信までを一括で依頼できる外注サービスもございますので、選択肢の一つとして覚えて頂ければと思います。
閑散期を「攻めの準備」に変える営業のタイミング

物流業界には明確な繁閑のサイクルがあります。年末の荷動き増加や引っ越し・年度末出荷が重なる12月・3月は繁忙期にあたる一方、1月中旬〜2月頃は閑散期とされています。
繁忙期は業務やオペレーションの効率化に集中せざるを得ませんが、会社を強くするのはむしろ閑散期の過ごし方です。営業活動は、荷主側にも比較検討の余裕がある閑散期に行う方が成約率を高めやすくなります。
この時期には、「繁忙期の車両確保」に不安を抱える荷主に対して、年間を通じた安定供給を条件に適正運賃での直接取引を提案する動き方が有効です。テレアポによる新規開拓を行う場合も、荷主の判断に余裕があるこのタイミングで進めることで成果につながりやすくなります。閑散期を「戦略的な準備期間」と位置づけることで、繁忙期頼みだった売上構造から抜け出し、経営の安定性を高めやすくなります。
組織的な営業力と生産性を高める基盤の強化

「営業ができる人間がいない」という属人的な悩みを解消するには、自社の実績や強みを個人の頭の中だけに置かず、組織として管理・共有し、信頼を可視化する仕組みが必要です。
法人営業の場合、自社の課題を解決する専門家として選ばれなくてはなりません。そのためにも、「事故なしの実績」や「24時間対応」といった強みを言葉にして具体的に伝えることで、顧客からの信頼は少しずつ積み上がっていきます。
こうした強みは、電話や訪問の場で説明するだけでなく、自社サイト上でも発信しておくことが有効です。荷主企業が新しい取引先をGoogle検索だけでなく、AI検索で調べてから問い合わせる、という動きも一般的になりつつあります。実績や対応力を自社サイト上で言語化し、様々な検索経由でも見つけてもらえる状態を作っておくことが重要です。電話・訪問・郵送物による直接営業とあわせて、問い合わせを待つ営業も取り入れてみましょう。
自社で運用する暇がない、方法がわからないという場合は、更新や改善を代理で行うサービスもございます。
【まとめ】持続可能な物流経営に向けた実践要約
「2024年問題」による労働時間規制は現在も継続する課題であり、加えて2026年4月には改正物流効率化法が施行され、大手の「特定荷主」には中長期計画の策定や物流統括管理者の選任といった新たな義務が課されます。荷主側に求められる基準が明確になっていく中で、運送事業者が「頼みたいと思われる理由」を具体的に示せるかどうかは、これまで以上に重要になっていくはずです。
人手不足を根本から解決する道は、採用力の強化だけではありません。専門性を軸に直接取引先を広げ、確保した利益を現場へ還元することで、営業力そのものを収益改善の武器に変えることができます。
自社の強みを正しく再定義し、閑散期という適切なタイミングで正しいターゲット企業に向けて提案を続けること。そして、その強みを組織として言語化し、電話・訪問・書類だけでなくWeb上でも発信していくこと。この両輪が、人手不足という制約の中でも利益と現場の待遇を両立させるための、現実的な経営判断になります。
米澤 俊一(よねざわ しゅんいち)
株式会社セールスマーケティングファーム代表
1979年横浜市出身。日本体育大学卒業。
IT企業で4年間Web運営に携わった後2008年に独立。
その後、福井県のベビーリーフ農家へ転身し、独自の営業手法を駆使してわずか2ヶ月でスーパー150店舗、レストラン400店舗との新規取引を開拓。ビニールハウス2棟から33棟への急拡大を牽引。OTAや農業ベンチャーの役員を経て、現在は営業職不在の中小企業を支援する営業代行会社の代表取締役。